駄文

2004年10月29日
「はい、お疲れ様でーす!」
次々に自分たちにかけられるスタッフの賑やかな声を聞いて、
収録の終わりを確認し、中居は楽屋へ帰るべく席を立とうとした。
が、何故か腰を上げることができない。まるで下から
何かに引っ張られているような。不思議に思いつつ、中腰のまま下を見つめると、

「何やってんだよ」
隣りに座っている吾郎と剛の手が自分の服の裾をはっしと掴んでいる。
「まぁまぁ、中居くん」
「何だよ、吾郎」
「お座り」
「俺は犬かっ!」
「いや、中居くんはどちかって言ったら猫だけど、そんなことはどうでもいいの」
「はぁ?」
「ま、ちょっと座ってよ」

大人しく――実は下から2人に有無を言わさずきつく裾をひかれたからなのだが――
椅子に座った中居を何故かメンバー全員が満足気に見ている。
ますます不思議そうにしている中居に、メンバーは一言、
「「「「メンバーに謝りたいことは?」」」」

見事に揃った4人の声。
どうやら今まで収録していたエンドトークの内容のことを聞かれているらしい。
けれど、中居が先程言った答えは、
「だから、ないっつったべ」

収録中、中居は、メンバーがそのことに触れてくることもなかったので
普通に流してくれたものだと思っていたのだけれど、
実は「収録後、中居を問い詰める」というのが中居を除くスマップメンバーが
以心伝心した考えだったらしい。
先程の満足気なメンバーの顔からするとその計画は順調に進んでいるようだ。

「嘘吐け」
皆が思っていたことを、代表して口に出した木村に、中居が抗議する。
「なんでだよー」
「おまえなら絶対謝ることいっぱいある」
「なに、俺ってそんな信用ないわけ?」
「そういうことじゃなくって、おまえなら謝ることいっぱいありそう」
「どういう意味だよ、それ」
「どういう意味って・・・」

木村の言葉を慎吾が引き継いだ。
「そうそう、木村くんの言う通り、あるでしょ、謝ること。だって中居くんは悪・・・」
魔、と続けようとした慎吾に、それだけで人を殺せるのではないかと巷で噂される
睨みをきかせ、黙らせたことを知ってか知らずか、吾郎がポンっと
中居の肩に手を置いた。

「ねぇ、言おうよ、中居くん。」
「だから、ないっつってんだろ」
「言わなかったら、何するかわかんないよ……?」
「……っ!?」
フフフと妖しげに笑った吾郎の言葉に中居が固まる。
吾郎の手が置かれている肩に、ゾワヮヮーと凄まじい悪寒が走ったような気がした。
「そんな怯えなくていいから。ね?」
まるで動物にでも言うような言葉を並べて、吾郎はにこやかに笑った。
(そんな可愛い反応しちゃってー)
(こいつ気持ち悪い……)
知ったらお互い怒るだろう言葉を2人とも心の中で考えていたが、あくまで
心の中なので喧嘩になることはない。

とりあえず、ギギギと首を回して中居は他のメンバーを見た。
が、見回した顔はどれもにこやかに、自分の答えを待っている顔ばかりである。
(逃げられない)
中居は悟った。
「わーったよ!言えばいいんだろっ?」
「そうそう」
相変わらず笑顔のまま吾郎が中居の肩から手を離した。
それに少し安心しつつ、中居はしばし謝ることを考え込む。

実際、先程の収録の際、「ない」というのが一番楽だったから言ったまでで、
中居は謝ることの記憶を掘り起こすこともなかったのだ。
人に言わせれば、「謝りたいことに自覚がないのは、罪悪感がまるでないという
ことであって、それはかなりタチが悪いのでは・・・?」というところであろうが。
そんなことはいざ知らず、中居は考え込む。記憶の深く深くを探り当てようと。

そして、ようやく記憶を掘り当てたらしい中居は、一番手として左端に
座っている慎吾に焦点を当てた。
軽い緊張感が場を纏う。

「慎吾、ごめん」
名指しをされた慎吾は緊張した面持ちで中居を見つめる。
「昔さ、それもまだデビューしたての頃、よく慎吾って
 自分でお菓子持ってきてただろ、収録とかに」
「・・・?うん」
「それである時、俺そんな甘いもんとか好きじゃねーけど、なんかムショーに
 お菓子食べたくなって、で、ちょうど側にあった慎吾の持って来たお菓子の
 最後の一個食べちゃった」
「って、もしかして……」
「あぁ、たしかその後慎吾が、犯人は剛だと思って散々騒いでたけど、
 あれ実は俺が犯人だったりして」
「「うわっ!サイテー!!」」
慎吾と剛2人からの非難の声に中居はカカカと笑う。
「ちょっと中居くん!俺、あの後ホンットにしつこく慎吾から責められたんだけど」
「だって収録の後食べようと思って取っておいたお菓子がなくなってんだよ?
 そりゃ怒るって!っていうか犯人中居くんだったの!?」
「うん、実は。剛じゃなくて」
「マジかよー…。つよポンごめん……」
「いいよ、もう。悪いのは中居くんだし」
「だから「ごめん」って謝ってんべー?」
「・・・あの事件は俺の心に深〜い傷跡を残したのに・・・」
皆が慎吾に同情して、心の中で涙した。
そんなことは気にもせずに、中居はというと、ふと思いついたように
剛に顔を向けた。

「そういえば、剛にもう一つ謝ることあったかも」
「……何?」
「この前さ、剛がうちに飲みに来たじゃん?」
「2か月くらい前?」
「そう。そん時にね、俺は寝たいのに、あんっまりにも剛が
 「まだ飲もうよ」ってしつこかったから……」
「…………」
「おまえの酒に睡眠薬入れた」
「……マジでっ!?」

「ねぇ、木村くん、お酒と睡眠薬っていいの……?」
「いや、やっぱ危険なんじゃねぇ……?」
こそこそと話した木村、吾郎はまたしても同情の目を、今度は剛に向けた。

「まぁ、大丈夫だったからよかったじゃんか」
「いや、よくないし」
「だって俺は寝たいのに、おまえ本当にしつけーんだもん!」
「だもんって……。っていうか人としてどーなの、それって……」

落ち込む剛を他所に、中居は次の標的に目をやった。

「吾郎は……」
「………」
「……いいや」
「ちょっと中居くんっ!?」
「何……」
「そんなあからさまに嫌な顔しないでよ……。なんでオレにはないの」
「はぁー…」
「ため息つかないでよ」
「わかってないなぁ、吾郎。謝ることがないってことは、
 常日頃から吾郎には悪いことしてないってことなのに……」
「あぁ、なるほど」

丸め込まれた。

「木村にはなぁ……」
「うん」
「別に謝ることでもないんだけど、まぁ一応……」
「何」
「うん。ほら、木村がよくネタにしてる、昔俺が木村の誕生日にあげた 俺と色違いの服な」
「うん」
「たまーに木村今でも着てくれてるみたいだけど、ありがとう」
「………どういたしまして」
「けど、俺の分の服は」
「………」
「アニキにあげちゃったからさぁ」
「………」
「実は「アニキとペアルック」みたいな……?」
「……………」
「木村……?」

木村が放心した。

そんな木村を放って、中居が周りを見回すと、どうやら
意識がしっかりしているのは自分と、あと一人。
何故だろうと軽く疑問に思いつつ、
「まぁ、こんな感じで」

唯一正気を保ったままの吾郎に「じゃ」と言い置き、中居は今度こそ
楽屋へ帰るべく腰を上げた。
そのままスタスタと部屋を出て行く中居の後姿を見つめて吾郎はため息をついた。
「まったくあの人は……。どうすんの、これ……」
残された3人を順に見て、吾郎は再び盛大なため息をついた。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

日記内を検索